口腔外科総合研究所 l 口腔外科 大阪

外耳道癌術後の咀嚼障害

年齢 性別 相談日
40代 女性 2011年2月25日

【相談者】2011年2月25日  40代 女性 A

左耳の外耳道癌ならびに悪性腫瘍の耳下腺、リンパ節転移のため、昨年12月9日に手術を行い、外耳中耳耳下腺リンパ節、顔面神経、顎のちょうつがい部分の摘出を行いました。

その際にかみ合わせがずれ、マウスピースで矯正していますがまだ左右にずれています。また噛む力が極端に弱く、しかも右側でしか噛めません。左側でかむのは諦めろと医師からは言われています。

左側の顔面神経を全切除しているため、口の半分が開かないのはしょうがないと思っていますが、正常に噛む機能を回復する方法はありませんでしょうか。ちょうつがい部分を人工のものを入れるなどの方法があればうれしいのですが。以上、ご回答いただけるようお願いいたします。

【回答】口腔外科総合研究所 樋口均也

外耳道癌の手術により顎関節や咀嚼筋、皮膚、口腔粘膜を切除されたのですね。これらそれぞれの組織が口の動きに関与しているため、手術によって機能が相当失われたことでしょう。残念ながら、完全に回復することは困難です。

ご質問の人工顎関節ですが、耳下腺癌の術後の開口障害に関しては入院などの治療費も含めて全てが保険適用外であるため、費用が高額となります。

一般的には、地道に機能訓練を続けることになります。また、同時に皮膚や口腔粘膜の欠損を回復させる手術を行うと咀嚼機能の向上に役立つでしょう。

【相談者】2011年2月28日  40代 女性 A

樋口先生、ご回答ありがとうございました。もう少しだけお聞きしてもよろしいでしょうか。人工顎関節ですが、顔面神経を切除してしまった状態で動かすことは可能なのでしょうか。また高額ということなのですが、どのくらいの金額を見込めばよろしいでしょうか。

私が住む地域で人工顎関節手術に実績のある施設をご存知でしたら、お知らせいただけないでしょうか。一縷の希望を見る思いです。以上、お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

【回答】口腔外科総合研究所 樋口均也

人工顎関節については厚生労働省が承認している製品がないため、健康保険が適応されません。外国製のものとしてはTMJ Joint Replacement System が米国やヨーロッパで使用を認められ、米国では年間約1000症例で使用されています。

この人工顎関節はわが国では未認可であり、今後も認可が下りる見込みはありません。対象となる症例が少ないこともあり適応申請しても採算が見込めないため、医療機器業者が申請の動きを起こさないのです。また、日本人の体格に合うか否かも不明です。厚生労働省が認可していない機材を医療機器業者が販売することは法的に禁止されているため、日本の医療機関が入手することも困難です。さらに、製品に欠陥があった場合などに個々の医療機関が全責任を負わねばならない状況を考慮すると、人工顎関節の手術を引き受ける施設を探すのはとても難しいでしょう。

また、治療費については100万円以上はかかると推測しますが、自由診療は医療機関によって金額がまちまちなので明確にはお答えできません。前述の通り、人工顎関節自体が保険適応外であるため、入院や手術に関する全ての治療費が自己負担となり、相当な出費を覚悟する必要があります。健康保険の範囲内での治療は、高額療養費制度によって一定金額以上の自己負担を免れることができますが、自由診療の場合には負担に上限がありません。

かつて大阪大学歯学部口腔外科に在籍していた当時、人工顎関節の開発と臨床応用に少し関係しましたが、研究は現在中止されています。他の大学で研究が行われている可能性はありますが、詳細は不明です。

外耳道は側頭骨の下面および下顎骨の下顎突起後方に位置しています。顎関節は側頭骨の下顎窩と下顎突起の下顎頭で構成されています。外耳道癌を切除する際に周辺の側頭骨と下顎骨も併せて切除されたのだと思います。このうち下顎突起のみをチタン製の人工顎関節インプラントとそれを下顎に固定するプレートは日本でも使用が認められており保険適応です。

側頭骨の欠損状態にもよりますが、下顎骨だけでも再建すれば顔面の非対称や噛み合わせのズレは改善可能だと思います。口が開くようになるには側頭筋や咬筋、皮膚、口腔粘膜の再建や機能訓練も必要となります。顔面の筋肉の動きを司る顔面神経が切除されていますが、他の神経が支配する下顎周囲の筋肉の働きにより開口運動は可能です。

治療については歯学部のある大学の付属病院の口腔外科で相談されるのがよいかと思います。下顎の形態的再建だけでなく噛み合わせや咀嚼機能の回復も望まれます。口腔外科以外に補綴科などの協力も必要と思われます。