口腔外科総合研究所 l 口腔外科 大阪

下顎枝矢状分割術後の舌神経麻痺

年齢 性別 相談日
30代 女性 2008年12月5日

【相談者】2008年12月5日 30代 女性 A

はじめまして。顎変形症の手術(下顎枝矢状分割術)の後遺症について教えてください。私は、3年前にこの手術を受けました。麻酔覚醒後より、左舌神経麻痺により味覚・触覚などの表在感覚、深部感覚をほとんど失くし代わりに、痺れや触覚が痛みとなる異常知覚に悩まされました。

担当医より、原因は「固定用のスクリューの長さが私の骨に対して想像以上に長かったため舌神経損傷した。医療過誤ではない。よくあること。」といわれました。治療費はオペ担当の麻酔医が交渉してくれたのですが、私もちでした。オペ前のムンテラでも舌神経麻痺の説明は受けませんでした。本当に、よくあることでしょうか?

また、その後、他の病院を紹介してもらい抜釘しました。味覚は改善したものの、痺れと痛みは今もあります。抜釘後「これ以上の改善は見込めない」といわれ、治療を打ち切りました。やはり、これ以上改善方法はなく、これからもこの痛み・痺れとつきあうしかないでしょうか?長々と申し訳ありませんが、どうか教えてください。よろしくお願いいたします。

【回答】口腔外科総合研究所 樋口均也

顎変形症に対する「下顎骨矢状分割術」の「術後舌神経麻痺」に関する、一般的な見解として回答します。

【舌神経の走行と手術操作について】

下顎骨矢状分割手術では、分割する下顎枝の内側を走行する神経を視認し、損傷を避けるためリトラクターと呼ばれる器具を挿入して視野を確保します。現在味覚が保たれていることから、舌神経は切断されることなく保存されている状態にあるといえます。

また、舌神経は下顎神経から分かれて下顎枝の内側を前下方に走行して舌に入りますが、当然のことながら個人差があります。すなわち舌神経が下顎骨に近い部位を走行している場合は、視野を確保する器具によっても圧排されることになり、下顎枝分割後に固定ビスを打ち込む際ドリルで穴を形成する時にも舌神経に触れる可能性があります。他にも説明を受けられたように、骨固定用のビスが当たって神経に影響を及ぼす可能性が考えられます。

いずれの場合も、手術担当者が十分に配慮したとしても起こりうるものです。

【舌神経機能の回復について】

今回のような末梢神経障害に対しては、ビタミンB12やATP製剤の内服が一般的であり、外科的な治療方法はありません。

【今後の対応について】

手術を行った医療機関と協議されることが必要です。今回のように医療ミスではないと説明を受けている状況でも、通常は病院側の窓口が対応することになります。手術を実施できるような医療施設には、患者側と医療者側の中間に立つ窓口が用意されているはずです。