年齢 | 性別 | 相談日 |
---|---|---|
30代 |
女性 |
2021年11月11日 |
質問1
3週間くらい治らない痛くない赤い口内炎のようなものがあり、心配性なので口腔外科で切除してもらいました。病理検査の結果、中度異形成とのことでした。病理検査結果は下記のように書かれていました。
組織学的には領域性を有する異形上皮で、過錯角化に加え、基底層の過形成、核/細胞質比の増加、細胞の多形成や核の過染性がみられます。内部の異形度は採取された範囲においても不均一です。Moderate dysplasia相当と考えます。上皮下にはほとんど炎症性細胞浸潤を認めません。
お聞きしたいのは
1私の中度異形成というのは前がん病変なのか
2今後最低2年、3~4ヶ月おきの経過観察をすることになったが、間隔は妥当か
3わたしはがんになってしまうのか、確率はどのくらいなのか
4ネットで検索しても白板症などの情報しか出てこず、異形成というのは珍しいのか
かなり心配性で、小さい子供がいて、子供達の顔を見ていると涙が出てきます。どうかご回答お願いします。
【回答1】口腔外科総合研究所 樋口均也
病理組織検査の結果というものは専門用語が羅列され、専門家以外には理解できない内容ですね。口腔粘膜が白くなったり、赤くなったりする口腔白板症の病理所見では「異形成」「過形成」と表現されるのが一般的です。つまり、異形成=口腔白板症のことです。
口腔白板症はがん化する場合があるため、以前は「前がん病変 」のひとつとされてきました。口腔白板症の約1割がガン化する、というメタ分析の研究結果が今年(2021年)報告されました。メタ分析とは多数の論文の結果を集計したもので、今回は37の論文が対象でした。口腔白板症において異形成がある場合はない場合に比べてガン化しやすく、おそらく2割前後がガン化すると予想されます。
一般的な経過観察の期間は半年に1度、あるいは年に1度です。従って、3~4カ月に一度の経過観察はかなり手厚い対応といえるでしょう。
RODRİGUEZ-ARCHİLLA, Alberto, and Cristina FUENTES-PEREZ. "Clinicopathological parameters related to malignant transformation of oral leukoplakia: a meta-analysis." Cumhuriyet Dental Journal 24.2.
dergipark.org.tr/en/download/article-file/1488578
質問2
ご返信ありがとうございます。主治医の先生からは、今回取り切れているし、今後癌が発生するような確率は他の何もない人と変わらないレベルだと思ってもらって大丈夫といわれました。それは誤りということでしょうか?
【回答2】口腔外科総合研究所 樋口均也
前回紹介したがん化の割合は異形成を伴う白板症全体を集計した結果です。この中には病変の一部を標本として採取し、病変が残っているものや、切除ではなく凍結外科療法やレーザー照射したものも混じっています。
したがって、病変を全切除した場合のがん化率は2割よりももっと小さくなります。しかし、何もない人よりはガン化の可能性が高いことも間違いありません。
質問3
なるほどです。納得しました。全部取り切れているかの確認は、具体的にはどのように行うべきなのでしょうか…サファイアプラス?というものをネットで見ましたが、それは有効ですか?
【回答3】口腔外科総合研究所 樋口均也
全部取り切れているかどうかは摘出した病変の連続切片を作製して観察することで確認できます。摘出した境界部位に異形成部分があれば、摘出した範囲の外側の部分にも異形成病変が残っていることになります。病変組織標本を調べる以外に、口腔粘膜に蛍光を当てて調べるサファイアプラスなどの機器やヨードグリセリン液を塗布するヨード染色法などがあります。
質問4
それは断端確認というものですよね?病理検査の結果用紙には特に何も書かれておらず…
病理検査の際は断端確認というのは必ず行うものなのでしょうか?
すみません、最後に1つだけ教えてください…今回わたしの病変は赤く(唇の粘膜の色と同じくらい)ほんの少し凹んでいました。まさに赤い口内炎という感じでした。切除する前の写真を見返したら唇の粘膜よりは赤い感じでした。光の加減で円形に赤い口内炎のように見えますが、実際は縦1〜2mm、横3〜4mmと楕円?形でした。色が赤いけども、病名をつけるなら白板症ということで良いのでしょうか。
【回答4】口腔外科総合研究所 樋口均也
がんの場合には断端確認を行いますが、今回のように良性病変では行わないと思います。ただし担当の先生が病理組織標本を自身で観察して、その結果「取り切れている」と説明されているのかもしれません。
「異形成」という病理組織所見ではどのような病気かわかりづらいため、以前のメールで「白板症」お答えしました。白板症は口腔粘膜が白くなる病気ですが、赤い部分が混じることもあるため、このような状態をイメージしてお答えしました。
正確にいうと「異形成」となる口腔粘膜病変には「白板症」「紅板症」「紅板白板症」の3種類があります。赤いだけで白くない病変だということですので「紅板症」の可能性が高いと思います。
質問5 口腔外科総合研究所 樋口均也
度々すみません。。改めて主治医に不安な点を確認したところ
● 取り切れているのは目視確認での判断
● より詳しくとなると染色で確認方法があるか、今回そこまでするものではない
● 紅板症で唇となるとかなり稀のようにネットで書いてるが、そんなことはないし、30代でもいる
● 大きなくくりでいうと紅板症
● 中等度の異形成なので癌化率は1割前後
と言われました。しかしネットでは紅板症となるとかなりの確率で癌化するし大変な疾患のように書かれています。素人のくせに恐縮ですが、ネット(いろんな病院のHP等)に書いてあることと乖離があり困惑しています。何度も申し訳ないのですが、
●取り切れているかの詳細な調査は本当にしなくて大丈夫なのか
● 異形成のレベルに関係なく、赤い病変というだけで紅板症(癌化率高)という診断になるのか
●ほとんどの症例に刺激痛有りという表記も見ましたが私は全く痛みはなかったです
●紅板症はネットで見るように、かなり稀な疾患なのか
● 主治医のいう今後の癌化する確率1割前後はそのとおりなのか
教えていただけると幸いです。
【回答5】口腔外科総合研究所 樋口均也
「取り切れているかの詳細な調査は本当にしなくて大丈夫なのか 」というご質問ですが、病変があるかどうかは目視で十分観察できます。
「 異形成のレベルに関係なく、赤い病変というだけで紅板症(癌化率高)という診断になるのか 」というご質問ですが、赤い病変というだけでは紅板症という診断にはなりません。紅斑症と診断するかどうかは担当の先生に確認してください。
「紅板症はネットで見るように、かなり稀な疾患なのか」「主治医のいう今後の癌化する確率1割前後はそのとおりなのか」というご質問ですが、紅板症は白板症と比べると稀な疾患です。紅板症が悪性化しやすいといわれるのは、異形成が強いものが多いからです。異形成の程度が弱ければ紅板症であったとしても悪性化の心配はほとんどないといえます。中等度の異形成という状態を考えて1割前後という数値が導き出されたのだと思います。
【謝辞】
詳しくありがとうございます。腑に落ちました!!口腔外科があまりなく、有名なクリニックですとセカンドオピニオンに3〜4万円かかると言われていた中で、とてもとても参考になるご回答を本当にありがとうございました。
不用意に不安にならずに、経過観察をしっかり行い、できる限りの口腔ケアを行なっていきたいと思います。本当に本当にありがとうございました。